2017年02月18日

<問23>短編小説「犬と笛」

      短編小説「犬と笛」のあらすじは下記の通りです。
   生駒山も舞台とし、生駒の山の女神である駒姫も登場する
        この物語の作者の名前を答えてください。

             出立編<葛城三神>
 昔、大和やまとの国葛城山かつらぎやまの麓ふもとに、髪長彦かみながひこという若い木樵きこりが住んでいました。
 ある日、髪長彦はいつもの通り、とある大木の根で笛を吹いていると、足一つの神があらわれ、いつも笛の音を楽しませてもらっている礼に願い事をなんでもかなえてやろうといいました。そこで、髪長彦は「私は犬が好きですから犬を一匹下さい。」と答えました。そんな髪長彦の無欲なこころを気に入った神は、森の奥から嗅覚の優れた白犬「嗅げ」を呼んで与えました
 あくる日、髪長彦は今度は、手一つの神から、その背中に乗れば空を飛べる黒犬「飛べ」をもらいました。
 そのあくる日は、髪長彦は、目一つの神から、鬼神おにがみでも噛み殺せる斑犬ぶちいぬの「噛め」をもらいました。
 目一つの神は、三人の神からもらった犬たちは髪長彦が笛を吹けば吹いたところに来ると伝えました。
 それから数日後、葛城山の麓の路みちを髪長彦が歩いていると、侍さむらい二人に出逢い、飛鳥の大臣様おおおみさまの御姫様姉妹が行方不明だと知らされました。
            試練と勝利編T<生駒山>
 髪長彦は「嗅げ」に御姫様達の行方を嗅ぎ出すよう命じたところ、姉の御姫様は生駒山の洞穴ほらあなに住む食蜃人しょくしんじんのとりこになっているとわかりました。
 食蜃人と云うのは、昔八岐やまたの大蛇おろちを飼っていた、途方もない悪者なのです。
 そこで髪長彦はすぐ「嗅げ」と「噛め」とを、両方の側わきにかかえたまま、「飛べ」の背中に跨またがって、大きな声でこう云いつけました。「飛べ。飛べ。生駒山の洞穴に住んでいる食蜃人の所へ飛んで行け。」
 その言ことばが終らない中うちです。恐しいつむじ風が、髪長彦の足の下から吹き起ったと思いますと、まるで一ひらの木葉このはのように、見る見る「飛べ」は空へ舞い上って、青雲あおぐもの向うにかくれている、遠い生駒山の峰の方へ、真一文字に飛び始めました。
 やがて髪長彦が生駒山へ来て見ますと、山の中程なかほどに大きな洞穴が一つあって、その中に金の櫛くしをさした、綺麗きれいな御姫様が一人、しくしく泣いていらっしゃいました。
 「御姫様、御姫様、私がお迎えにまいりましたから、もう御心配には及びません。さあ、早く、御父様おとうさまの所へお帰りになる御仕度をなすって下さいまし。」
 こう髪長彦が云いますと、三匹の犬も御姫様の裾すそや袖そでをくわえながら、「さあ早く、お仕度をなすって下さいまし。わん、わん、わん、」と吠えました。
 しかし御姫様は、まだ眼に涙をためながら、洞穴の奥の方をそっと指さして御見せになって、「それでもあすこには、私をさらって来た食蜃人が、さっきからお酒に酔って寝ています。あれが目をさましたら、すぐに追いかけて来るでしょう。そうすると、あなたも私も、命をとられてしまうのにちがいありません。」とおっしゃいました。
 髪長彦はにっこりほほ笑んで、「高たかの知れた食蜃人なぞを、何でこの私が怖こわがりましょう。その証拠には、今ここで、訳わけなく私が退治してご覧に入れます。」と云いながら、「噛め」の背中を一つたたいて、「噛め。噛め。この洞穴の奥にいる食蜃人を一噛みに噛み殺せ。」と、勇ましい声でいいつけました。
 すると「噛め」はすぐ牙きばをむき出して、雷かみなりのように唸うなりながら、まっしぐらに洞穴の中へとびこみましたが、たちまちの中うちにまだ血だらけな食蜃人の首をくわえたまま、尾をふって外へ出て来ました。
 ところが不思議な事には、それと同時に、雲で埋うずまっている谷底から、一陣の風がまき起りますと、その風の中に何かいて、「髪長彦さん。ありがとう。このご恩は忘れません。私は食蜃人にいじめられていた、生駒山の駒姫こまひめです。」と、やさしい声でいいました。
 しかし姉の御姫様は、命拾いをなすった嬉しさに、この声も聞えないようなご容子ようすでしたが、やがて髪長彦の方を向いて、心配そうに仰有おっしゃいますには、「私はあなたのおかげで命拾いをしましたが、妹は今時分どこでどんな目に逢って居りましょう。」
            試練と勝利編U<笠置山>
 髪長彦はこれを聞くと、今度は妹の御姫様についても「嗅げ」に命じたところ、妹の御姫様は笠置山の洞穴に住む土蜘蛛つちぐもの虜になっているとわかったので、「飛べ」に乗って笠置山へ飛びました。
 そこで、一旦は土蜘蛛を降伏させましたが、隙すきを見て土蜘蛛は、二人の姫、三匹の犬、髪長彦を洞穴に閉じ込めてしまいました。だが、土蜘蛛は油断して、髪長彦の笛の美しい音色に魅入られて洞穴をふさいでいた大岩を開けてしまい。「噛め」に噛み殺されてしまいました。
 所がまた不思議な事には、それと同時に谷底から、一陣の風が吹き起って、「髪長彦さん。ありがとう。このご恩は忘れません。私は土蜘蛛にいじめられていた、笠置山かさぎやまの笠姫かさひめです。」とやさしい声が聞えました。
             帰還編<飛鳥の都>
 さて、髪長彦が、「飛べ」に乗って飛鳥の大臣様の下へ御姫様達をお連れする途中、御姫様達を探していた侍二人を見かけたので、髪長彦は地上に降りて自分の手柄を話しました。すると侍二人は嫉妬して、髪長彦が油断した隙に大事な笛を奪い、三匹の犬と御姫様達も奪い、「飛べ」に乗って大臣様のいる都へ飛んで行ってしまいました。
 髪長彦が途方に暮れておいおい泣いておりますと、生駒山の峰の方から、さっと風が吹いて来たと思いますと、その風の中に声がして、「髪長彦さん。髪長彦さん。私は生駒山の駒姫です。」と、やさしい囁ささやきが聞えました。それと同時にまた笠置山の方からも、さっと風が渡るや否や、やはりその風の中にも声があって、「髪長彦さん。髪長彦さん。私は笠置山の笠姫です。」と、これもやさしく囁きました。そうしてその声が一つになって、「これからすぐに私たちは、あの侍たちの後あとを追って、笛をとり返して上げますから、少しも御心配なさいますな。」と云うか云わない中うちに、風は唸りながら、さっき「飛べ」の飛んで行った方へ行ってしまいました。が、少したつとその風は戻ってきて、あの大事な笛を始め、金の鎧よろいだの、銀の兜かぶとだの、孔雀くじゃくの羽の矢だの、香木こうぼくの弓だの、立派な大将の装いが、まるで雨か霰あられのように、眩まぶしく日に輝きながら、ばらばら髪長彦の眼の前へ降って来ました。髪長彦はそれらを装備し、笛を吹いて呼び戻した「飛べ」に乗って飛鳥に向かい、大臣様のもとへ空から舞い降り、御姫様達を助けたのは自分で、二人の侍が自分の手柄を奪ったと告げると、侍は反論しました。しかし御姫様達の証言で侍は白状し、言い逃れができなくなった侍たちは三匹の犬に追われて御館おやかたの外へ逃げて行きました。
                エピローグ
 そののち、髪長彦は大臣様の御婿様おむこさまとなりました。ただ、どちらの御姫様が、髪長彦の御嫁さんになりましたか、それだけは何分昔の事で、今でははっきりとわかっておりません。

 <1918(大正7)年12月作/翌年1・2月、児童雑誌「赤い鳥」に発表>

 お断り : 〇〇編<〇〇>やエピローグという途中表題は、問題作成者があらすじをわかりやすくするために付けたものです。また、生駒山を舞台とし駒姫が登場する「試練と勝利編T<生駒山>」については、原文をほぼそのまま引用しております。

  解答・解説